６・25戦争（朝鮮戦争）停戦から60年の今年上半期、韓半島では中国も含めて情勢に変化の兆しが見えてきた。韓国政局、停戦60年と中国の問題、従北派問題と統一ビジョンについて、韓国自由連合の金成昱代表とメディアウォッチの邊熙宰代表が意見を交わした。両者とも韓国の若手保守系論客だ。（聞き手＝李民晧ソウル支社長）

　民主党が街頭デモで与党セヌリ党の批判を始めた。

 　邊　８月３日、民主党のソウル広場集会に参加した人数は３０００人だった。彼らは３万人と主張しているが、現場で見ると違う。民主党は、（昨年の大統領選挙で）国家情報院の（インターネットへの）書き込みがあったと問題視している。民主党の目標は、政局の打開にあるのだろう。

３日に民主党が行った「場外集会」

　金　民主党は国家情報院の政治介入と工作中止を名分にしているが、「国家情報院の書き込み」問題の核心は、従北派の工作を防ぐことにあった。国家情報院の問題をあおって政治の流れを変える意図があると疑われる。盧武鉉のＮＬＬ放棄発言など、自分たちに不利な問題を覆うための試みでもある。

 　邊　国家情報院の書き込みは、対南工作ではなく対北心理作戦。中国で活動する北韓のサイバーテロ集団に対応するチームだ。従北派には、国家情報院の対北心理戦を弱体化させ、国家情報院の対共捜査機能を剥奪しようとする考えがあると思う。

 　複数の左派系市民団体が、国家情報院の改革を求める団体を発足させた。運動は拡散するだろうか。

　金　「国家情報院時局会議」という連合の形やメンバーは、08年の「狂牛病対策会議」と驚くほど一致している。進歩連帯を主軸に統一連帯、民衆連帯などだ。民主党が従北・利敵団体と同じ船に乗るということではないか。反大韓民国戦線だ。

 　邊　「わが民族同士戦線」には北韓政権、韓国の従北勢力、さらに民主党まで含まれていく形だ。民主党が反憲法・反国家連合戦線に入るのは既成政党としての存在意義を自ら放棄するものだ。国民はＮＬＬや書き込み問題に関心がなく、第１野党と親盧武鉉系のメディアを動員しても集まったのは３０００人程度。私たちは今月中に城南から８・15従北清算大会を開くが、参加者５０００人を見込んでいる。大衆動員でも右派が左派を逆転しはじめた。

 　金　左派の大衆扇動力が大幅に減少したのは、民主党のアイデンティティーが従北と連合し、国民の信頼を失ったからだ。

　今回の街頭デモの原因は、07年の盧武鉉・金正日会談録公開に端を発している。盧武鉉のＮＬＬ放棄発言と国家記録院にあるはずの会談録の消失、焦点である盧政権の利敵行為究明が薄れてしまった雰囲気だが。

　金　政府が一体なぜこのような態度なのか、理解できない。

 　邊　盧政権時にＮＬＬの放棄を主導した長官級の人物が今も要職に就いている。安全保障をコントロールしている人物は当時、ＮＬＬ放棄が盛り込まれた合意文に署名した一人だ。

 　金　それよりも大きな問題になるのは、盧政権の人たちの事前・事後の議事録だ。盧武鉉の意図を把握するため事前の議事録を見たいのに、どういうことか丸ごと消えている。

 　邊　民主党は“場外闘争＂をしながら、検察の捜査には応じられないとしている。

０７年の南北首脳会談

　金　ＮＬＬ問題で明らかなのは、盧武鉉がＮＬＬを金正日に“上納＂しようとしたということだ。
　

首脳会談の際、盧武鉉は金正日に政府の内部文書を渡したが。

　邊　南北共同体案を渡したということだが、その中に込められた連邦制案が問題となる。

 　金　国家情報院発言録を見ても利敵行為であることが明らかになった。国民の54％がそう信じている。ただし捜査結果が発表されても、野党は違うと主張するだろう。

 　民主党が従北路線に合流したと見る根拠は何か。

　金　現在の民主党は、かつてのように湖南地域を代表して、大韓民国の憲法と正統性を認識する政党ではない。地下党出身で大韓民国の体制を否定する人々が民主党に入ったためだ。統一革命党（68年結成）出身の韓明淑、南民戦（同79年）出身の李学永、中部地域党（同92年）出身の李哲禹、ユン・ミンソクなどが挙げられる。親盧武鉉グループは、主体思想派の強い影響力のあった全大協（87年結成）出身が多い。だから「普通の人」に分類される金ハンギルや韓和甲の湖南派が追い出されたのだろう。セヌリ党は、民主党の失策が原因で漁夫の利を得ている。これが一番大きな問題だ。セヌリ党が無気力で理念なき行動をしても、国を憂う国民は彼らに票を入れるしかない状況に置かれている。

　朴槿惠支持者の期待としてはこういう勢力を清算すべきだが、政権の意志は弱いように感じる。

 　邊　現在までの朴政権は、朴大統領が個人技で支えていて、組織が動的に従北を打破し、自由統一することができない状態だ。大統領の支持率を維持するというのが参謀陣の考えではないか。

 　金　朴政権発足から半年を見ると、明るい面と暗い面がコインの裏表のようにある。明るい面は、朴槿惠という人物が最小限の原則は持っていて、愛国心だけは疑うことができないという点。支持の大部分は、北韓問題への原則固守だ。

 　朴大統領の人事選考は論難を呼んだが。

　金　６・15、10・４宣言の支持者を、すなわち太陽政策論者を起用しながら対北原則を守るように仕事をさせる。このような人たちが外交・安保ラインに多数布陣している。李明博時代には国を憂う人々が自分の信念を持って物事を進める面があったが、今は朴大統領がすべてを決め、周囲は彼女の顔色ばかりうかがっている状況だ。長官も次官も信念を持って働いている人が少ない。

 　邊　大統領の周りにいる大統領府とセヌリ党勢力自体が守旧勢力だ。李明博の時よりも保身主義者が多い。今や躍動的な「新右派」が台頭している。彼らは従北派とセヌリ党を打ち壊して出発すれば、金正恩まで克服できると考えている。

 　金　民主党の自殺行為がセヌリ党の自己革新を防いでいる。外交・安保・統一ラインが李政権時はＡ級だったが、今はＣ級のようだ。専門性が弱く、縁故で抜擢された人たちだから大統領に忠実なだけだ。

 　保守陣営の次期大統領選（２０１８年）の構図どう予想するか。

　金　朴正熙が後継を育てなかったように、朴槿惠も同じことをするのではないか。朴元大統領も軍の司令官のツースター（将校）以上にスマートな人はほとんど抜擢しなかったが、朴大統領もそうだ。野党では、安哲秀・朴元淳が、民主党と連合戦線を張っているが、与党の次期選挙は心配だ。保守陣営の守旧的枠組みを破る新しい流れが生まれたなら勝算はある。

 　邊　「極右」と罵倒されている超強硬の根本的統一論が巻き起こると見ている。政治勢力化は時代の要請に応じてなされる。個人の能力だけで成り立つのではない。各自が自分の判断でその勢力に入り、統一問題とかみ合えば、新勢力の結集は促進されるだろう。40代以下の若者は今の韓半島の経済体制に不満を抱き、もはや生活の質が改善されることがないということを痛感している。

 　金　需要が引き続き増えるのは確実だ。どこで接点を見つけ、実質的な政治の需要を満たす供給源になるのかはわからないが、需要が高まったのは否定できない。20代から40代の立場では、選択肢が２つしかない。赤い帯を締めて「生活できない」とデモに参加するか、自由統一を成して生活半径を広げるかだ。このような現状打破への渇望があるが、これを妨げている勢力が存在する。ほかでもない民主党とセヌリ党に代表される、韓半島の新しい変化の潮流を妨げる勢力だ。まるで旧韓末に（開港を防いだ）「衛正斥邪派」のような守旧派だ。大衆の需要を全く満たしていない。先の大統領選挙で安哲秀が新しいアイコンとして変化の流れを作ろうとしたが、安哲秀という人物は、タマネギの皮をむくようにちぎってみると需要を満たせる人物でないことが確認された。いつ需要を満たす政治勢力が出てくるか待っている20代から40代は、現状打破を望むようになるだろう。

　２０１８年までに新たな保守政治勢力は生まれるか。

　金　20代が急激に現実を知るようになった。天安艦爆沈や延坪島砲撃事件など、北韓発の事件が決定的だった。同様の事件が起こらないとは限らないが、新たな保守勢力ができるとはいいきれない。

中国は米国の排除が前提　中国との統一議論は慎重に

　休戦状態を打破しようという世論が少ないのはなぜか。

　邊　分断状態が楽だというふうに主流メディアが吹き込んできたことが大きい。40代以下の経済条件は劣悪で、経済成長率２％では、これ以上耐えるのが難しい状況だ。

金正日（右）と会った金章洙・国家安保室長

　金　肯定的な現象は、自由統一というスローガンに激しく反応する人が急激に増えたこと。彼らは自由統一しか選択肢がないと考えている。また、平壌政権を終わらせなければならないとも考えている。これに同調する人々が10年前に比べると飛躍的に増加した。「日刊ベスト」のような右派のオンラインコミュニティが盛んなのも、現状打破したい心理の発動だ。
　

邊　内乱を経験せずに統一を成し遂げれば、韓半島のＧＤＰは13％、韓国基準で20％上昇する。それを知っていれば今の２％成長の市場で苦労する理由はない。北韓の金正恩一人を倒せばできる。
　

金　既得権層も考えが変わりつつある。平壌政権を終える以外に従北問題を解決できないという視点がある。
　

邊　起業家集団は、統一に反対しない。しかし、ソウルの江南（富裕層の密集地）は統一が不要なようだ。現実に安住する勢力が既得権を奪われるのではと懸念している。
　

反統一的な既得権勢力とはどのような人々か。

　金　既得権層は、左右でいえば左派が多い。高所得で既得権構造に安住し、存分にイデオロギーを語ることができる人々だ。職業は教授、教師、公務員、学者、判事、検事など。生活が安定し、実用性や実践性を考慮せず、存分に頭の中で空想ができる人が左派になる。法曹界は特に偏っている。法曹団体「私たちの法研究会」の裁判官などはその一例だ。教育にも問題がある。韓国のある名門大学では、憲法学の教授４人全員が左派で、うち２人は民主労働党員だ。観念論と抽象性に捕われればプラグマティックになれない。

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